研究テーマ:新しい分子と機能の創出
わたしたちの研究は、新たな機能を持つ分子を設計・合成し、その性質を理解し、その機能を最大化するという三つのステップから成り立っています。研究対象とする分子としては分子量数百の小分子から分子量数万の高分子や生体分子までを含み、機能としても反応基質・触媒・分子プローブ・有機材料まで幅広く取り組んでいきます。その独自性は誰もこれまで創ったことのない「新しい分子を生み出す」ことにあり、そこを起点として分子の設計・合成から高機能化という研究サイクルを好循環させ、分子の関わる物質科学・生命科学領域の発展に資することを目指しています。
1.基質デザイン
新しい反応を生み出すに一つの戦略として、簡単に合成できる新しい独自の基質を持つことが効果的ではないかというシンプルな考えのもと研究を行っています。 その取り組みの成果として最近では、N-(フルオロスルホニル)カルバミン酸エステルを新たな窒素官能基化剤として利用した反応を報告しています。
Representative References
J. Am. Chem. Soc. 2022, 144, 2107–2113; J. Am. Chem. Soc. 2021, 143, 1745-1751; Nat. Chem. 2011, 3, 642-646;J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 4076-4077.
2.触媒デザイン
私たちは、京都大学丸岡研究室 に所属していたときから、様々な不斉触媒開発に携わってきました。その多くは機能として触媒活性があることは知られているものの、不斉触媒としての活用が進まない分子に対してデザインを施し、不斉触媒としての機能を最大化する取り組みです。またボロン酸触媒のように触媒機能そのものの発見と、触媒構造の最適化の両方の実現に至った例もあります。創出された触媒はさらに新たな反応開発へと応用展開しており、 現在もインダノール骨格を有するヨウ素およびセレン触媒を活用した新しい不斉反応開発に取り組んでいます。
Representative References
Angew. Chem., Int. Ed. 2018, 57, 7200-7204; J. Am. Chem. Soc. 2016, 138, 5206-5209; Angew. Chem., Int. Ed. 2016, 55, 8081-8085; J. Am. Chem. Soc. 2015, 137, 16016-16019; Nat. Chem. 2014, 6, 702-705; J. Am. Chem. Soc. 2013, 135, 17667-17670; J. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 10054-10054.
3.機能性分子デザイン
触媒設計では「ある特定の反応の収率や選択性を向上させる」というゴールが明確に設定されています。一方で研究の中で見出された新たな分子の動的な挙動から、どのような新たな機能を発現させられるかというアプローチの研究にも取り組んでいます。現在その一歩として、創発的研究支援事業のサポートを受けた新しい動的共有結合の創出とその結合を用いた有機構造体や結合応答型の蛍光プローブの概念確立に成功しつつあります。今後これら分子を進化させ、新たな機能の顕現を図っていきます。